企業における産業医面談は、従業員の心身の健康を守り、職場の安全を維持するために欠かせない取り組みです。しかし、「そもそも何をするのか」「どのようなときに実施するのか」がわかりづらく、対応に悩む人事担当者も少なくありません。
本記事では、産業医面談の目的や流れ、対象となるケースをわかりやすく解説。あわせて、従業員が「意味がない」「受けたくない」と感じる理由や、その際の対処法についても紹介します。
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目次
産業医面談とは、企業で選任している産業医が健康リスクを抱える従業員と1対1で行う面談のことです。人事担当者が事前に健康診断・ストレスチェック・勤怠などの健康情報や業務内容を共有し、そのうえで産業医が従業員と直接対話します。
原則として就業時間内に実施されるもので、「企業の安全配慮義務の一環」という考え方から従業員が面談を受けている間も賃金が発生するのが一般的です。
産業医面談の主な目的は、企業の安全配慮義務を確実に果たすために、従業員の心身の健康状態にもとづいて、就業配慮が必要か医学的に判断することです。
面談を通して配慮が必要と判断した場合は、勤務時間の調整や配置転換など就業上の措置に関する意見を企業へ提供します。
産業医面談を計画的に運用・記録することは、企業が従業員の健康に配慮し、法的義務を果たしていることのエビデンスになります。面談体制の整備は、企業リスク管理の観点からも極めて重要といえるでしょう。
労働安全衛生法により、一定の基準を満たした長時間労働者、ストレスチェックで高ストレス者と判定され面談の申し出のあった人などに対して、事業者は産業医の面談の機会を設ける義務を負います。
一方で、従業員については、面接指導を受けることについて一律に義務づけられているわけではありません。ストレスチェック後の高ストレス者面談などは、従業員本人の申し出が前提となります。
ただし、長時間労働者に関する面接指導など、健康確保措置の実施が必要とされる場合には、従業員にも協力が求められます。(労働安全衛生法 第66条の8)
そのため、実務では、従業員が安心して面談への協力義務を果たせるよう、面談の目的やメリット(健康確保・就業上の配慮につながること)を丁寧に説明することが大切です。
産業医には、従業員の信頼を守るための守秘義務と、会社に助言を行う報告義務の2つが課されています。
| 守秘義務 | 報告義務 | |
|---|---|---|
| 法令 | 労働安全衛生法 第105条 | 労働安全衛生法 第13条第5項 |
| 内容 | 面談で知り得た従業員の健康情報やプライベートな内容を、本人の同意なく会社へ伝えることはできない | 従業員の健康を守るために必要な範囲で、事業者に対して意見や助言を行う |
2つの義務のうち、原則として守秘義務が優先されます。そのため、本人の同意がない限り、面談内容が会社へ共有されることは基本的にありません。
しかし、守秘義務がある一方で、産業医面談の記録や企業への意見書は人事に提出が必要です。その際には健康管理システムを活用することで、意見書など必要な範囲だけを人事が確認できるように権限を設定しての記録・保管ができます。
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産業医は、従業員50名以上の事業場で選任が義務付けられています。しかし実際には、毎月1回・1時間程度の訪問が一般的で、すべての従業員と面談するわけではありません。
産業医面談が必要となるのは、主に次の3つのケースです。
1つ目のケースには、長時間労働者に対する面談、ストレスチェックによる高ストレス者への面談、健康診断後の有所見者への面談などが含まれます。
一方、2つ目・3つ目のケースでは、休職・復職時の面談やがん治療との両立支援など、個別の健康課題に応じた面談が行われます。
ここからは、それぞれのケースについて詳しく見ていきましょう。
長時間労働者との面談は、過重労働による脳・心臓疾患やメンタルヘルス不調の防止が目的です。対象は、1ヵ月の時間外・休日労働が80時間を超え、疲労の蓄積が認められる従業員です。
本人から申し出があった場合、会社には医師または産業医による面接指導の実施義務があります。実務上は、申し出を待たずに会社が主体的に面談を案内するケースも多く、疲労蓄積度チェックリストなどで高リスク者を把握して早期対応するのが一般的です。
面談では、睡眠状況・疲労感・集中力の低下などを確認し、必要に応じて労働時間の短縮や業務見直しなどの就業上の配慮を勧告します。
法定基準は80時間超ですが、45〜60時間超で自主的に面談を行う企業もあり、早期対応による健康リスクの低減が重視されています。
参考:厚生労働省|医師による長時間労働面接指導実施マニュアル
【関連記事】長時間労働者に産業医面談を実施する基準や流れとは?面談のポイントも解説
ストレスチェックで「高ストレス者」と判定された従業員は、本人の申し出があった場合に限り、会社が医師や産業医による面接指導を実施する義務があります。目的はメンタルヘルス不調や脳・心疾患の予防です。
面談では、ストレスの原因や職場環境との関係、心身の状態について詳しくヒアリングします。その際に確認するのは、勤務時間や人間関係、睡眠、生活習慣、通院状況など日常や働き方に関わる項目です。
必要に応じて専門医受診や休養を勧め、職場に要因がある場合は、業務量の調整や配置転換などを事業主へ助言します。
面談結果は、本人の同意を得たうえで必要な範囲のみ会社へ共有され、就業上の配慮や支援策の検討に活用されます。
参考:厚生労働省|数値基準に基づいて「高ストレス者」を選定する方法
参考:厚生労働省|医学的知見に基づくストレスチェック制度の高ストレス者に対する適切な面接指導実施のためのマニュアル
健康診断で要再検査や要治療などの異常所見があった従業員に対しては、安全に就業できるかどうか判断することを主な目的として面談を行います。
面談では、健康診断の数値に加え、生活習慣やストレス状況、通院状況なども確認します。
| 【面談対象になることが多い基準値】 ◼︎収縮期血圧 180 mmHg 以上 ◼︎拡張期血圧 110 mmHg 以上 ◼︎空腹時血糖 200 mg/dL 以上 ◼︎随時血糖 300 mg/dL 以上 ◼︎HbA1c 10% 以上 ◼︎Hb 8 g/dL 以下 ◼︎ALT 200 mg/dl 以上 ◼︎クレアチニン 2.0 mg/dl 以上 |
参考:厚生労働省|厚生労働科学研究費補助金(労働安全衛生総合研究事業) 分担研究報告書
産業医は、本人の治療状況を確認したうえで、通院時間の確保や勤務時間の配慮など、職場での具体的なサポート方法を会社に提案します。
参考:厚生労働省|健康診断結果に基づき事業者が講ずべき措置に関する指針
心身の不調で休職中または復職を希望する従業員も、産業医面談の重要な対象です。
症状と業務負荷をふまえて安全に就労できるかどうかを評価し、必要な就業上の措置を会社へ助言することが目的です。
休職前の面談では、主治医の診断書をもとに症状や業務負荷、勤務状況を確認し、休職の必要性や期間を判断します。復職面談では、症状の回復度や生活リズム、復職意欲、業務遂行能力を確認し、短時間勤務や段階的復職などの支援プランを検討します。
産業医の役割は、本人・主治医・会社の間を調整し、意見書を作成して就業上の配慮を提案することです。復職後も定期的なフォローアップを行い、再発防止と安定した職場復帰をサポートします。
参考:厚生労働省|心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き
産業医面談は、次のような流れで実施されます。
| ステップ | 内容・ポイント |
|---|---|
| 01.対象従業員の選定 | ◼︎健康診断・ストレスチェック結果や長時間労働者などからハイリスク者を抽出 ◼︎対象が多い場合はリスクの高い従業員を優先 |
| 02.実施日時と場所の調整 | ◼︎産業医の訪問スケジュールや社内行事と重ならない日時を設定 ◼︎1人あたり5〜30分が目安 ◼︎プライバシーが確保できる個室またはオンライン面談を活用 |
| 03.従業員への通知 | ◼︎日時・場所確定後にメールや社内システムで案内 ◼︎カレンダー登録時はプライバシー設定を確認 |
| 04.産業医への情報共有 | ◼︎面談前に健康診断・ストレスチェック結果、残業時間、過去面談記録などを共有 ◼︎(高ストレス者面談の場合)必要に応じて部署の集団分析データも提供 |
| 05.面談の実施 | ◼︎原則として産業医と従業員の1対1で実施 ◼︎人事や上司の同席は極力控える ◼︎来社時はスムーズに面談が行えるよう段取りを整える |
| 06.意見書の作成と記録保管 | ◼︎面談後、産業医が就業上の配慮内容をまとめた意見書を作成 ◼︎企業は内容をもとに対応を検討し、記録は5年間保管 |
なお、産業医面談をオンラインで実施する場合には、下記について留意しましょう。
【オンラインで実施する際の留意事項】
(2)面接指導に用いる情報通信機器が、以下の全ての要件を満たすこと。
① 面接指導を行う医師と労働者とが相互に表情、顔色、声、しぐさ等を確認できるも
のであって、映像と音声の送受信が常時安定しかつ円滑であること。なお、映像を
伴わない電話による面接指導の実施は認められない。
② 情報セキュリティ(外部への情報漏洩の防止や外部からの不正アクセスの防止)が
確保されること。
③ 労働者が面接指導を受ける際の情報通信機器の操作が、複雑、難解なものでなく、
容易に利用できること。(3)情報通信機器を用いた面接指導の実施方法等について、以下のいずれの要件も満たす
厚生労働省|情報通信機器を用いた面接指導の実施について
こと。
① 情報通信機器を用いた面接指導の実施方法について、衛生委員会等で調査審議を行
った上で、事前に労働者に周知していること。
② 情報通信機器を用いて実施する場合は、面接指導の内容が第三者に知られることが
ないような環境を整備するなど、労働者のプライバシーに配慮していること。
産業医面談は従業員の健康を守るために重要な取り組みですが、実際には「意味ない」「受けたくない」と感じる従業員も少なくありません。
ここでは、従業員が面談をためらう主な理由と、その不安を和らげるための対応策を解説します。
日々の業務に追われるなかで、産業医面談を受ける意味を見出せないことは、面談をためらう大きな要因の一つです。
人事担当者から「会社として、従業員が安全に働けるかどうかを判断するために行う」という目的や、面談の種類によっては労働者にも労働安全衛生法上の協力義務がある旨の説明を行いましょう。
従業員が面談を拒む理由のなかでも多いのが、「話した内容が上司や人事にすべて伝わってしまうのではないか」という不安です。
この誤解を防ぐには、産業医には法律で定められた守秘義務があると明確に伝えることが重要です。相談内容は本人の同意なしに会社へ共有されず、報告されるのは「就業上の配慮が必要かどうか」など、健康管理に必要な範囲に限られます。
上記の内容を説明し、プライバシーが守られていることを従業員に理解してもらいましょう。
「不調を正直に話したら、評価が下がるかもしれない」「面談に呼ばれた時点で問題社員と見られるのではないか」といった人事評価への懸念も、拒否する理由として多く見られます。
この場合は、会社としての明確な姿勢を示すことが重要です。産業医面談を受けたこと、あるいは話した内容を理由に不利益な扱いをすることは労働安全衛生法で禁じられているという事実を伝えましょう。
常時50人以上の従業員がいる事業場では、労働安全衛生法により産業医の選任が義務となります。未選任の場合は法令違反となるため、早急に契約・選任が必要です。
従業員が50人未満の小規模事業場では、産業医の選任義務はないものの、従業員の健康を守る体制を整えることは企業の責任です。
その際は、地域産業保健センター(さんぽセンター)を活用するのがおすすめです。小規模事業場の事業者や従業員を対象に、健康相談や医師による面接指導を原則無料で提供しています。
企業の規模を問わず、従業員が健康に働ける環境づくりに取り組むことは、労務トラブル防止につながります。
【関連記事】産業医は中小企業でも必要?いない場合に困るケースや相談先を解説!
産業医面談は、従業員の健康状態を把握し、安全に働ける環境を整えるための重要な仕組みです。面談を通じて心身の不調を早期に発見し、就業上の配慮や改善策を講じることで、従業員の健康維持と生産性の向上を両立できます。
一方で、従業員が産業医面談に対して不安を感じる場合もあります。人事担当者は、面談の目的や守秘義務などを丁寧に伝え、安心して相談できる環境を整える姿勢が大切です。
産業医面談を「単なる義務」としてではなく、「従業員の声を拾い上げる貴重な機会」として活用し、健康で働きやすい職場づくりを実現しましょう。
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