産業医
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なぜ「産業医は役立たず」?必要な理由や失敗しない選び方を解説

産業医は労働安全衛生法で選任が求められているものの、場合によっては「役に立たない」「何をしているんだろう」と思われてしまうこともあります。

そこで今回は、産業医が役立たずといわれる理由や、それでも産業医が必要とされる理由、失敗しない産業医選びについて紹介します。

産業医の見直し方とは?

そもそも産業医とは?

産業医は、労働安全衛生法で選任が義務付けられている医師で、従業員の健康管理や職場環境の改善が主な役割です。

臨床医が病気の治療や診断を主な役割とするのに対し、産業医は健康被害の防止に重点を置いています。

この認識がズレていると、「産業医は治療もしてくれないし役に立たない」と感じてしまう原因になるので、しっかり押さえておきましょう。

産業医が役立たずといわれる理由

企業で働く人たちに産業医が役立たずといわれることがあります。なぜ産業医が役に立たないと思われるのでしょうか。企業と従業員の視点で深掘りしてみましょう。

産業医が役に立たないと感じる企業目線での理由

産業医選任後に変化がみられない

産業医は、健康診断の結果に基づく助言や、ストレスチェックを通じたメンタルヘルス支援など、従業員の健康を守る役割があります。

ただ、産業医の役割は業務起因の病気や事故を「防ぐ活動」が中心です。そのため、休職者数や健康診断の有所見率といった目に見える成果は、時間がかかることもあります。

このため、産業医を選任してもすぐには大きな変化が感じられず、「思ったほど変わらない」と感じてしまう場面もあります。

短期での結果だけでなく、長期的な目線で評価することが大切です。

費用対効果がわかりにくい

産業医がしっかり機能していても、その成果は数字として表れにくい場面があります。

特に「未然に防げた不調や事故」は把握しづらく、どれだけ効果があったのかを短期間で示すのは困難です。

たとえば、メンタルヘルス不調の早期対応によって休職や離職を防げていたとしても、「防げた件数」や「どれだけコストを削減できたのか」を正確に可視化することは簡単ではありません。

その結果、費用をかけているにもかかわらず、成果がわかりづらいと感じることがあります。

産業医の選任は、問題が起きない状態を維持するための投資と理解しておくとよいでしょう

従業員が産業医を役に立たないと感じる要因

そもそも産業医が何をしているのかわからない

そもそも「産業医」という言葉自体が、全従業員に浸透しているとは限りません。

産業医は常駐しているわけではないため、多くの従業員にとって直接話す機会がありません。

その結果、産業医と関わりがない従業員からすると、「どんな人かわからない」「何をしているのか見えない」と感じられてしまうことがあります。

人事は産業医面談を案内する際に、こういった前提を理解しておくとよいでしょう。案内の際には「産業医とはどんな役割の医師なのか」や「選任している産業医の写真とプロフィール」をあわせて紹介するのも効果的です。

顔が見えるだけでも、従業員の安心感や相談のしやすさがぐっと高まります。

情報が筒抜けになりそうだから産業医に相談したくない

長時間労働の面談やストレスチェックの高ストレス者面談など、必要に応じて産業医と話す機会があります。希望すれば、心身の不調について相談することもできます。

ただ、「話した内容が会社に全部伝わるのでは?」と不安に感じ、相談をためらう人も少なくありません。義務の面談でも、人事評価を気にして本音を話せないケースもあります。

こうした誤解は、産業医や企業の説明が十分でないことが理由です。産業医には守秘義務があり、面談内容は人事や上司には伝わりません。この点を日頃から周知し、面談の際にも改めて説明があると、安心して相談につながります。

従業員が「ここなら安心して話せる」と感じられる環境づくりが、産業医の役割を活かすうえで欠かせません。

産業医面談で従業員の不安を解消するポイントは、こちらの記事で詳しく解説しています。

【記事】産業医面談とは?人事担当者が知るべき目的や流れ、従業員の不安を解消するポイントを解説

産業医が必要な3つの理由

一見産業医が役に立たないように思われても、産業医は企業の事業を健全に継続するためには欠かせない存在です。その理由を深掘りしてみましょう。

理由1. 労働安全衛生法の遵守

「常時50人以上の労働者を使用する事業場」では、産業医の選任が義務付けられています。(労働安全衛生法 第13条

産業医の選任義務があるにもかかわらず、産業医が未選任である状態は違法です。産業医の未選任状態には、50万円以下の罰金が科されることがあります(労働安全衛生法 第120条

さらに、労働安全衛生法では以下のような業務を実施しなければならず、産業医の存在や協力が不可欠です。

労働安全衛生法に基づく健康管理業務一蘭

理由2. 実効性のある対応による労務リスクの回避

企業には、従業員が安全で健康に働けるよう配慮する「安全配慮義務」があります(労働契約法第5条)。万が一労災が発生し、企業側が適切な措置を講じていなかったと判断されれば、多額の損害賠償や社会的信用の失墜といった致命的な労務リスクを背負うことになります。

特に、近年はメンタルヘルス不調のトラブルは増加しています。厚生労働省の発表によると、精神障害を原因とする労災の請求件数は年々増え続け、令和6年度には3,780件と過去最多を更新しました(令和6年度「過労死等の労災補償状況」)。 

こういったトラブルに対して、専門的な知見で対応してくれる産業医がいると企業としては安心です。

理由3. 従業員が安心して働ける環境づくり

経済産業省の調査で、給与水準以上に「健康・働き方への配慮」を重視する学生や親が多いということが明らかになりました。

「健康・働き方への配慮」を重視する学生や親が多い

出典:経済産業省「健康経営・健康投資の促進」

専門家である産業医と共に従業員の心身を支える仕組みを整えることは、法規制への対応を超え、今の時代に求められる「人を大切にする企業」としての誠実さを体現することになります。「この会社なら安心して長く働ける」と従業員に実感してもらえる土台を作ることで、結果として優秀な人材の確保や定着という、企業にとって大きな経営メリットに繋がります

産業医選びで失敗しないためのポイント

では、どのようにすれば「役に立たない」と感じてしまう産業医選びを防ぐことができるのでしょうか?3つのポイントで解説します。

ポイント1.自社の状況や課題を把握する

産業医を選任する場合には、事業場のニーズに合った産業医を見極めることが重要です。

常時雇用する従業員が50人を超えている/いない、メンタルヘルスによる不調者や休職者が発生している/いないなど、まずは自社の状況や課題を洗い出してみましょう。

自社の課題や、健康経営や産業保健体制がどのようなフェーズにあるのかを理解することで、最適な産業医を選びやすくなります。

ポイント2.自社に適した産業医か見極める

従業員属性に様々な種類があるように、産業医の中にも様々なタイプが存在しています。産業医によって、得意な部分や苦手な部分があることを理解しましょう。産業医のタイプを知り、把握することで、自社とのミスマッチを減らすことができます。

より詳細な産業医選定のポイントは、こちらの記事で解説しています。
【記事】優秀な産業医を選ぶための5つのステップ/自社にあった最適な産業医の選び方

ポイント3.専門知識をもった産業医紹介会社に相談する

産業医選びはゴールではなく、健康管理のスタートラインです。産業医とともに従業員の健康管理体制をどう構築・運営していくかが重要ですが、企業側にもある程度の知識がないとせっかくの産業医を活用しきれません。

産業医紹介サービスを活用すれば、企業ごとの状況にあわせて産業医を提案してもらえるだけでなく、選任後の体制構築まで専門的なサポートが受けられます。企業と産業医のミスマッチを防ぎ、担当者の負担も軽減できるため、産業医を選任する企業にとって心強い味方となるでしょう。

Carelyなら、活躍できる産業医をご紹介します

企業によって企業の特性や健康課題は様々です。Carelyの産業医紹介では、専門スタッフが企業の特性にマッチする産業医をご紹介します。選任後のサポート体制もあるので、安心して選任が可能です。

サービスの詳細は、下記サイトをご覧ください。

「Carely産業医紹介」の詳細を見る

執筆・監修
前田佳宏先生
この記事を書いた人
監修:前田佳宏(和クリニック)

島根大学医学部卒業。東京大学医学部附属病院精神神経科に入局。東京警察病院や国立精神・神経医療研究センターなどで精神科臨床に従事。現在は東京都町田市に「和クリニック」を開院。ストレス・トラウマ治療を専門とする。複数の企業や教育機関の嘱託産業医として、専門性をいかし、職場のストレスマネジメントや復職支援にも携わる。 精神保健指定医、認定産業医。

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