毎月の安全衛生委員会で「今月は何を議題にしようか」と悩む人事や担当者は少なくありません。健康診断やストレスチェックなどの法令テーマは一巡し、結果として、会議が形式的になってしまうケースも見られます。
本記事では、法令を押さえながらも「自社にフィットするテーマ設計」を行うための考え方と、ネタ切れを防ぐ年間運用の仕組みを紹介します。現場が動き出す委員会づくりのヒントとして、ぜひ参考にしてください。

目次
安全衛生委員会(または衛生委員会)は、労働安全衛生法により「毎月1回以上の開催」が義務づけられています。どちらも目指すのは「安全で健康に働ける職場づくり」です。
衛生委員会は、従業員の健康障がいの防止や健康保持・増進が主目的。安全委員会は、これに加えて労働災害の防止など「安全リスクの低減」に重点を置いているのが特徴です。
法令上の主な審議事項としては、下記の内容が挙げられます。
| 委員会の種類 | 主な審議事項 |
|---|---|
| 安全委員会 | ▪️作業手順や安全規程などのルールづくり ▪️労働災害の原因分析と再発防止策 ▪️年間の安全衛生計画策定 ▪️安全教育の実施計画 |
| 衛生委員会 | ▪️作業環境の管理 ▪️健康診断結果の分析と対策 ▪️長時間労働など健康障がい防止対策 ▪️衛生教育の企画・評価・改善 |
これらの項目を安全衛生委員会の年間計画に組み込み、定期的に報告・審議していくことが基本です。まずは、法令で定められた基本テーマを押さえたうえで、自社の実情に合わせて議題を設定してみましょう。
次章では、年間を通して使えるテーマ例をご紹介します。
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「今月の議題、何にしよう」「去年と同じテーマしか浮かばない」そんなときに参考になるのが、法令遵守に活かせるテーマ例と季節や職場の実情に合わせたテーマ例です。
この章ではすぐに使えるテーマ例と、安全衛生講話にも活用できる題材を紹介します。
まずは、労働安全衛生法で定められた審議事項を、具体的な内容に落とし込んだ基本のテーマ一覧をご紹介します。
| カテゴリ | テーマ例 |
|---|---|
| 安全管理の基本 | 安全衛生計画の見直し/安全衛生方針の確認 |
| リスク管理 | リスクアセスメントの進め方・改善状況 |
| 労災防止 | ヒヤリハット共有と対策検討 |
| 安全教育 | 新入社員教育・KY活動の定着 |
| 職場巡視 | 職場巡視の結果報告と改善案 |
| ルール徹底 | 作業手順書・マニュアル遵守の徹底 |
| 安全文化 | ヒヤリハットを報告をしやすい職場づくり |
| ※健康管理 | 健康診断結果と事後措置 |
| ※ストレス対策 | ストレスチェックの活用 |
※の項目は「衛生委員会」でも扱うテーマ
上記でご紹介したテーマカテゴリは「法令遵守・体制づくり」の観点で整理したものです。
一方で、実際の職場での課題や従業員の関心に沿ってテーマを設定したい場合は、季節や時事的な内容も盛り込んで計画すると良いでしょう。
| 月 | テーマ例 |
|---|---|
| 4月 | ▪️安全衛生方針の確認 ▪️新入社員教育・サポート |
| 5月 | ▪️健康診断の準備 ▪️喫煙対策(5月31日:世界禁煙デー) |
| 6月 | ▪️熱中症、食中毒対策 |
| 7月 | ▪️健康診断結果の事後措置 ▪️ストレスチェック準備 |
| 8月 | ▪️長時間労働対策 ▪️休暇取得促進 |
| 9月 | ▪️全国労働衛生週間の準備 ▪️防災・避難訓練 |
| 10月 | ▪️労働衛生週間の振り返り ▪️今年度のストレスチェックの結果と活用 |
| 11月 | ▪️感染症対策/冷え・乾燥対策 |
| 12月 | ▪️アルコールに関する健康問題 |
| 1月 | ▪️労災・ヒヤリハット共有と対策 ▪️メンタルヘルス対策 |
| 2月 | ▪️花粉症対策・アレルギー対策 |
| 3月 | ▪️次年度の安全衛生計画づくり |
健康診断やストレスチェックなどの時期は企業によって異なるため、自社のスケジュールに合わせて調整しましょう。
また、法律改正や行政キャンペーン(例:全国労働衛生週間・禁煙デーなど)を議題に取り上げるのも効果的です。
カテゴリごとにテーマを整理しておくと、「今月何を話すか」「どの課題を深掘りするか」をすぐ決められ、毎月のネタ探し時間を大幅に減らせます。
| カテゴリ | テーマ |
|---|---|
| 季節のテーマ | ▪️季節に応じた健康管理 ▪️台風・大雨などの災害対応訓練 ▪️異動・配置転換時のメンタルヘルスサポート |
| 安全のテーマ | ▪️災害事例の共有と再発防止策 ▪️新機械・新設備導入時のリスクアセスメント ▪️安全教育の効果測定 |
| 健康のテーマ | ▪️セルフケア/ラインケアの実践 ▪️眼精疲労・腰痛・肩こり対策 ▪️更年期・中高年の健康管理 |
| 職場環境のテーマ | ▪️ハラスメント防止・心理的安全性の向上 ▪️両立支援(治療・介護・子育てとの両立) ▪️コミュニケーション活性化 ▪️デスク・椅子・モニター配置の作業姿勢など |
| 時事・社会情勢のテーマ | ▪️地震・豪雨・停電などのBCP ▪️労働安全衛生法改正 ▪️プレゼンティーズム/アブセンティーズムの理解 |
上記以外にも、「うちの現場で実際に起きそうなこと」などの業界別テーマなども組み込むのもおすすめです。委員会が現場と切り離された会議にならず、改善提案も出やすくなります。
安全衛生講話とは、安全衛生委員会や衛生委員会のなかで、産業医や保健師が従業員に向けて行う5〜10分程度のミニセミナーのことです。季節や職場の状況に合わせたテーマを取り上げることで、委員会を「学びのある場」として活性化できます。
テーマを決める際は、産業医に時期に合った健康課題や自社で注目すべき内容を相談し、社員の関心と実務をつなげるのがおすすめです。
衛生委員会で使える衛生講話テーマ集では、季節・健康・職場環境ごとにすぐに使える題材をまとめています。委員会のテーマ設計やテーマ探しのヒントとしてご活用ください。
とはいえ、「毎月の議題が似た内容になってしまう」「会議が形だけになっている」という声も多く聞かれます。次章では、こうした「ネタ切れ」や「マンネリ化」を防ぐ仕組みづくりを紹介します。
「毎月の委員会で何を話せばいいかわからない」「最近は同じ話題ばかりでマンネリ化している」これは多くの中小企業に共通する悩みです。実は「ネタ切れ」や「マンネリ化」の原因は、単なる話題不足ではなく、委員会運営の仕組みそのものにあります。
次のような要因が重なると、議題が出にくくなり、会議が形式化しやすくなります。
| ▪️「義務的な開催」になっており、改善につながる議論ができていない ▪️テーマの年間計画がないため、方向性が定まらず、その場しのぎの内容になる ▪️現場の課題を拾い上げられず、リアルな議題にならない ▪️メンバーが当事者意識を持てていないため、形式的になりがち |
次章では、ネタ探しから卒業し、自然と議題が生まれる仕組みをつくる方法を紹介します。
外部資料やテーマ配信サービスを活用すると、委員会の準備を効率化できますが、自社の課題に合わせて活用しないと、会議が単なる情報共有で終わってしまいます。
ここでは、議題が自然に生まれ、継続的に議論できるテーマ設計のポイントをご紹介します。
委員会の目的は毎月の話題づくりではなく、「職場の課題をどう解決するかを考える」ことです。そのためには、1年分のテーマを「固定」と「変動」の2軸で整理しておくと、テーマが設計しやすくなります。
| ▪️固定テーマ:法令対応・健康診断・ストレスチェック・長時間労働など ▪️変動テーマ:季節リスク・職場課題・時事ネタなど |
その場しのぎの議題決めではなく、「会社全体で共有すべき課題」をテーマとして仕組み化することが大切です。整理した内容を、次の年間計画へ落とし込み、実際の運用につなげていきましょう。
委員会の年間計画を立てておくことで、毎月「何を話そうか」と悩むことが少なくなります。
あらかじめ下記の3ステップで年間スケジュールを作成しておくと、季節イベントや法定項目との連動もスムーズになり、会議がより実践的になります。
① 必須議題を整理し、「固定テーマ」を計画化する
まずは、法令で義務づけられた内容(健康診断・ストレスチェック・長時間労働対策など)を年間カレンダーに配置しましょう。
② 季節や職場リスクに合わせた「変動テーマ」を追加する
固定テーマが埋まったら、空いている月に季節ごとのリスクや現場課題に合わせて「変動テーマ」を追加します。例えば、4月は新入社員教育、6月は熱中症・食中毒対策など、気候や業務に合わせて柔軟に議論できるようにします。
③ 各テーマに目的・担当・期限を設定し、進捗を見える化する
テーマごとに「目的(なぜ話すか)」「担当者(誰が進めるか)」「期限(いつまでに対応するか)」を明確にしておきましょう。
年間計画を整えたら、次に考えるべきは「委員会の中身をどう動かすか」です。せっかくの年間計画も、話し合いが形骸化してしまっては意味がありません。
この章では、参加者が主体的に発言し、行動につながる委員会に変えるためのテーマ設定のコツを3つご紹介します。
委員会を「決まった人だけが話す場」にしないためには、 現場を巻き込み、声を吸い上げることが必要です。産業医や現場責任者にもテーマづくりに関わってもらい、日常の気づきを次回の議題へつなげましょう。
例えば、下記のような方法があります。
| ▪️日報に「ヒヤリとしたこと」「困ったこと」を簡単に記入してもらう ▪️職場巡視や面談で出た相談内容を、産業医からテーマとして提案してもらう ▪️委員会の1週間前に「職場で気になっていること」を簡単に共有してもらう |
このように現場の声を拾いあげることで、リアルな議題が自然に増えていきます。その結果、参加意識が高まり、現場も「自分たちの意見が反映されている」と感じやすくなります。
委員会全体の運営のコツは、こちらの記事で詳しく解説しています。
【関連記事】衛生委員会を活性化する5つの戦略!マンネリ化を防ぐテーマのの決め方や運営のコツを紹介
委員会を意見が出る場にするには、 学びや気づきが残る参加型のテーマ設計が効果的です。
例えば、下記のような方法があります。
| ▪️クイズ形式で安全知識を確認する ▪️事例をもとに意見を出し合うケースディスカッション ▪️投票型で「自社で起こりやすいリスク」を選ぶ |
このように「安全意識の浸透」や「気づきの共有」を目的に入れることで、自然と発言が増え、参加者の理解も深まります。
安全衛生委員会で議論した内容を「実行して終わり」ではなく、次回の委員会で振り返る流れを組み込むことが大切です。改善の担当を人事だけでなく委員会メンバーの中から任命することで、現場を巻き込みやすくなります。
例えば、5月に「健康診断の実施計画」や「腰痛対策」を議題にした場合、翌月の委員会で進捗や社員の反応を共有すると、取り組みの成果を確認できます。
このように「実行 → 報告 → 改善」の流れを仕組み化することで、単発の話題で終わらず、継続的な委員会運営が実現します。
安全衛生委員会を活性化する鍵は、「テーマの仕組み化」と「現場を巻き込む運営」です。法令で定められた固定の内容に加え、季節や職場課題などの【変動テーマ】を組み合わせることで、年間を通じた議題設計がしやすくなります。
また、安全衛生委員会を継続的に機能させるには、産業医の関わり方も重要です。巡視や面談で得た現場の声をもとに議題を提案してくれる産業医がいれば、委員会が「形式的な場」から「課題を解決する場」へと変わります。
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