従業員50人以上の事業場では、産業医の選任が義務づけられています。とはいえ、実際にどのように選任すれば良いのか、探し方や費用に悩む担当者も少なくありません。
本記事では、産業医は派遣できるのかをはじめ、違法にならない依頼の方法や委託できる業務、費用相場をわかりやすく解説します。
法令対応を確実にしながら、従業員が安心して働ける環境づくりを進めたい方は参考にしてください。
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目次
常時50人以上の労働者がいる事業場では、労働安全衛生法第13条に基づき、産業医を1名以上選任する義務があります。
このとき「産業医を派遣する」と表現されることがありますが、実際には派遣社員のような形態で会社に医師が所属する仕組みはありません。一般的に「産業医の派遣」と呼ばれるケースは、次のような場合です。
| ◼︎ケース1:産業医の紹介会社から産業医を紹介されて選任する場合 ◼︎ケース2:健康診断などで契約している医療機関に所属する医師に、産業医業務を依頼する場合 |
いずれの場合も共通しているのは、自社とは直接のつながりがない外部の医師に来てもらうという点です。
そのイメージから「派遣」という言葉が使われがちですが、これは法律上の労働者派遣契約とはまったく異なります。最終的に企業と産業医の間で結ばれるのは、ほとんどが業務委託契約です。
したがって、「産業医の派遣」という表現はあくまで一般的な呼び方であり、正確には紹介を受けて業務委託契約を結ぶものと理解しておきましょう。
【関連記事】産業医との契約を基本から解説!契約書の必須事項や流れ・相場を知っておこう
ここでは、産業医の派遣が法律上どのように扱われているのか、また例外的に認められるケースについても解説します。
病院や診療所などで行われる医療関連業務への労働者派遣は、労働者派遣法により原則として禁止されています。
正確には、産業医の派遣を直接禁止する文言はありません。ただし、産業医の仕事も従業員の健康状態について医学的な判断を下す専門性の高い医療関連業務にあたるため、派遣は禁止されていると解釈できます。
参考:e-GOV法令検索|労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律施行令
参考:厚生労働省|労働者派遣事業を行うことができない業務は・・・
医師の派遣は原則として禁止されていますが、社会的にどうしても必要な場合に限り、いくつかの例外が認められています。下記は、その代表的なケースです。
| 【医師の派遣が例外として認められているケース】 ◼︎医師を確保するのが難しい、へき地の病院や離島の診療所での業務 ◼︎産休や育休に入る医師の代わりとしての業務特定の社会福祉施設での業務 |
ただし、一般的な企業が産業医を選任するケースは、これらの例外には当てはまりません。そのため、企業が産業医を派遣という形で依頼することは認められていないと理解しておきましょう。
ここでは、代表的な4つの産業医探しの方法を紹介します。それぞれの特徴やメリット・注意点を押さえて、自社に合った選び方を検討しましょう。
医師会は、その地域の医師たちが所属する公的な団体で、産業医の紹介も実施しています。地域に根ざした活動をしているため、地元の医療事情に詳しい医師を紹介してもらえる可能性があります。
地域に根ざしているため、安心して相談できるのが大きなメリットです。ただし、紹介される医師の候補は限られることが多く、必ずしも自社の希望に合うとは限らないという点も覚えておきましょう。
従業員の健康診断を委託している医療機関に直接相談してみるのも一つの方法です。すでに取引関係があるため、まったく知らないところに連絡するより、心理的なハードルが低いのがメリットといえます。
ただし、その医療機関に産業医の資格を持つ医師がいるとは限りません。仮にいたとしても、企業の労働衛生や職場環境管理に精通していないケースもあるため、あくまで可能性の一つとして検討しましょう。
社長・役員の人脈や、付き合いのある弁護士・社会保険労務士を通じて産業医を紹介してもらう方法もあります。信頼できる人からの紹介という点で安心感があるのはメリットです。
ただし、都合よく条件に合う医師が見つかるケースは多くありません。また、紹介された医師が自社の雰囲気や方針に合わなかった場合に断りづらいなど、人間関係の難しさが生じるおそれもあります。
近年は、民間の「産業医紹介サービス」を活用する方法が主流になっています。これは、産業医を探す企業と、産業医として働きたい医師をマッチングさせるサービスです。
最大のメリットは、数多くの登録医師の中から、自社の業種や規模、抱えている健康課題に合わせて、最適な候補者を効率よく探せる点です。条件交渉や契約手続きのサポートをしてくれるサービスも多く、多忙な担当者の負担軽減にもつながります。
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会社の従業員数が50人未満であれば、国が設置している「地域産業保健センター(通称:地さんぽセンター)」に相談できます。
この窓口は、産業医の選任義務がない小規模な事業場をサポートするための公的機関で、産業医による健康相談や面談といったサービスを原則無料で受けることが可能です。
ただし、あくまで従業員数が50人未満の小規模事業場を対象とした支援サービスであり、特定の医師を自社の産業医として契約できるわけではない点は押さえておきましょう。
参考:独立行政法人 労働者健康安全機構|地域窓口(地域産業保健センター)
産業医の職務は、労働安全衛生法規則で次の9つに分類されています。

出典:独立行政法人 労働者健康安全機構|中小企業事業者の為に産業医ができること
その他、職場巡視や衛生委員会への参加といった活動も重要な役割の一つです。順に見ていきましょう。
産業医は、労働安全衛生法に基づき、従業員の健康保持増進と職場環境の改善に関する幅広い職務を担っています。下記は、法律で定められた9つの主な業務内容です。
| 業務内容 | 概要 |
|---|---|
| 1. 健康診断の実施と結果に基づく措置 | 健康診断結果を確認し、必要に応じて就業上の制限や改善措置を企業へ助言する |
| 2. 長時間労働者に対する面接指導と措置 | 時間外・休日労働が一定基準を超える従業員に対して面接を実施し、健康状態を確認する |
| 3. ストレスチェックと高ストレス者への面接指導 | 年1回のストレスチェック結果を確認し、高ストレス者に面接指導を実施する |
| 4. 作業環境の維持管理 | 温度・湿度・換気・照明・騒音など、作業環境が健康に与える影響を確認する |
| 5. 作業管理 | 作業の進め方が健康に配慮されているかを確認する |
| 6. その他の労働者の健康管理 | 健康診断やストレスチェック以外の健康課題にも対応する |
| 7. 健康教育・健康相談・健康増進のための措置 | 健康に関する講習会・研修の実施や個別相談を実施する |
| 8. 衛生教育 | 安全衛生に関する教育を実施し、従業員の意識を高める |
| 9. 健康障害の原因調査と再発防止のための措置 | 健康障害発生時に原因を調査し、再発防止策を企業へ提案する |
法律で定められた職務に加えて、産業医には職場の実情に即した活動も求められます。代表的なものとして、「職場巡視」と「衛生委員会への参加」があります。
産業医は月1回以上、実際に職場を巡回して、作業環境や作業状況を直接確認します。
照明が暗すぎないか、換気が十分か、従業員の作業姿勢に無理がないかといった点を観察し、必要に応じて改善提案をします。
従業員50人以上の事業場では、毎月の衛生委員会を開催することが義務づけられています。
産業医は委員会の正式メンバーとして任意で出席し、感染症対策や長時間労働の改善など、専門的な立場から意見を述べます。
産業医の報酬は、契約形態や勤務頻度、事業場の規模によって大きく異なります。ここでは、産業医の費用相場について詳しく見ていきましょう。
産業医の費用を考えるうえで知っておくべきなのが、「嘱託(しょくたく)」と「専属」という2つの契約形態の違いです。どちらを選ぶかは、法律で定められた会社の従業員数によって決まります。

嘱託産業医は月に1回〜数回、決まった日時に会社を訪問する非常勤の産業医です。労働者数が50人〜999人の事業場が該当します。
専属産業医は週に3〜5日勤務する常勤の産業医です。労働者数が1,000人以上の事業場や、特定の有害な業務に500人以上が従事する事業場で選任が義務付けられています。
なお、産業医選任の基準となる労働者数のカウントには、正社員だけでなく契約社員・パートタイマー・アルバイト・他社から受け入れている派遣社員まで、すべての人が含まれます。
【関連記事】産業医の選任義務がある「常時50人以上」とは?迷いがちな基準を解説
非常勤である嘱託産業医の費用は、多くの場合、月額の報酬として支払われます。
金額は、主に会社の従業員数と、月あたりの訪問回数・時間によって決まります。従業員数が多ければ、それだけ産業医が目を通すべき健康診断のデータや面談の対象者も増えるため、報酬も高くなるのが一般的です。
具体的な相場としては、従業員数100人以下の会社で、月1回・1〜2時間程度の訪問の場合、月額5万円以上が一つの目安となります。ただし、会社の規模や委託する業務範囲によっても金額は変動します。
常勤の専属産業医の場合は、月額ではなく年俸制で契約するのが一般的です。
金額は、医師としての経験年数や専門分野、週に何日勤務するかといった条件によって大きく変わります。相場としては、週3〜4日の勤務で、年俸1,000万円〜1,700万円程度が目安です。
これはあくまで一般的な相場であり、産業医としての経験が豊富な医師や特定のスキルを持つ医師の場合は、さらに高くなることもあります。
産業医の選任は、従業員50人以上の事業場に法律で義務付けられています。「産業医の派遣」という言葉は一般的な表現にすぎず、実際には業務委託契約を通じて選任するのが通常の方法です。
産業医を探す手段には、医師会や医療機関からの紹介などがありますが、効率やマッチングの確実性を考えると、近年は「産業医紹介サービス」を利用する企業が増えています。
法令対応だけでなく、従業員が安心して働ける職場づくりのためにも、自社に合った産業医を選任することが重要です。
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