ストレスチェックの準備を進めるなかで、「実施者」と「実施事務従事者」という似た名前の役割が出てきて、誰に何を頼めばいいのか迷ってしまう担当者の方も多いのではないでしょうか。どちらも制度を支える大切な役割ですが、必要な資格や、担う業務には大きな違いがあります。
本記事では、ストレスチェックの実施者と実施事務従事者の違いや役割、選任要件をわかりやすく解説します。

目次
ストレスチェックとは、質問票に回答してもらうことで、従業員の心理的負担の程度や要因を定期的に把握する検査制度です。
高ストレス者の早期発見や職場環境の改善を通じて、従業員のメンタルヘルス不調を未然に防止する「一次予防」を目的としており、事業者に対して年に1回以上実施することが義務づけられています。
なお、2025年に公布された労働安全衛生法の改正により、これまで努力義務に留まっていた従業員50人未満の事業場でも、2028年4月からストレスチェックの実施が義務化される予定です。
▼義務化の詳しいスケジュールや、導入に向けて今からできることはこちらの記事でご確認ください。
【関連記事】ストレスチェック義務化が50人未満も対象に!つまずきやすいポイントをパターン別に解説
ストレスチェック実施の基本的な流れは下図のとおりです。

ストレスチェック制度では、事業者に対して下記の対応が義務づけられています。
| ★ストレスチェックの実施 ★ストレスチェック結果をもとに抽出した、高ストレス者への対応(産業医面談の勧奨など) ★(対象者から申出があった場合)医師の面接指導 ・(労働者数50人以上の事業場)労働基準監督署へ報告書の提出 ・(職場規模に関わらず努力義務)集団分析や職場環境改善 |
これまでストレスチェックの実施が努力義務だった50人未満の事業場も、改正後は最低限★の項目に対応が必要です。
▼ストレスチェックの流れや実務の詳細はこちらの記事で解説しています。
【関連記事】ストレスチェックとは?義務や費用、実施の流れなど実務を徹底解説
ストレスチェックを実施するには、主に下記の4つの役割が必要です。
<ストレスチェック実施時の主な役割一覧>
| 役割 | 主な立場 | 担当する内容 |
|---|---|---|
| 事業者 | ストレスチェックの実施責任者 | ▪️実施方針の決定 ▪️実施体制の整備 ▪️労基署報告 など |
| ストレスチェック担当者 | 制度運用を管理する担当者(メンタルヘルス推進担当など) | ▪️スケジュール調整 ▪️ストレスチェック受検案内 ▪️委託先との連携 など |
| 実施者 | 医学的観点からストレスチェック実施を担う専門職 | ▪️ストレスチェック結果の確認 ▪️高ストレス者の選定 ▪️面接指導勧奨 など |
| 実施事務従事者 | 実施者の指示をもとに事務業務をサポートする担当者 | ▪️データ管理の補助 ▪️ストレスチェック受検対応 ▪️事務作業 など |
なお、人事権を持つ「監督的地位にある者」は、実施者にも実施事務従事者になれません。具体的には、経営者、人事部長、採用や昇進の決定権を持つ上司などが該当します。これは、ストレスチェックの結果が人事評価や解雇、異動といった不当な扱いに利用されることを防ぎ、従業員が安心して受検できるようにするためです。
ただし、人事部に所属していても、「直接的な人事権を持たない職員」であれば実施事務従事者になることは可能です。
本記事では、ストレスチェックの実施に欠かせない「実施者」「実施事務従事者」について詳しく解説します。
ストレスチェックにおける実施者とは、医学的な観点からストレスチェックの企画や結果の評価を行う中心的な役割を担う者を指します。医学的な専門知識が求められるため、法律によって資格要件が厳格に定められています。
ストレスチェック実施者になれるのは、下記の資格を持つ者に限られます。
<実施者の資格要件>
実施者には、メンタルヘルスの専門的な知識だけでなく、企業風土や労働者の状況への理解も求められます。厚生労働省の「ストレスチェック実施マニュアル」では、職場の実態や従業員の様子を普段からよく知っている産業医などを、実施者として選任することを推奨しています。
ストレスチェック実施者の役割は検査の実施だけでなく、専門的な観点から下記の業務を担当します。
<ストレスチェック実施前>
<ストレスチェック実施後>
ストレスチェック実施後の面談指導とは、ストレスチェックの結果、高ストレス者と判定された従業員を対象として行う面接を指します。高ストレス者本人から申し出があった場合、事業者は医師(通常は産業医)による面談を実施する義務が課せられています。
【関連記事】ストレスチェック後の産業医面談とは?高ストレス者の対応や流れを解説
ストレスチェックの実施事務従事者とは、実施者の指示のもとで実務的な事務作業をサポートする担当者を指します。
実施事務従事者になるための特別な資格は不要です。事業者が、社内の衛生管理者や事務職員などを任意に指名できます。
配置人数に明確な決まりはありませんが、一般的には1〜2名、規模の大きい企業ではそれ以上の人数を配置するケースも多く見られます。
実施事務従事者の具体的な業務内容は下記のとおりです。
<実施事務従事者の主な業務>
ストレスチェックの結果は、従業員の心の内面に関わるデリケートな個人情報です。従業員が不安なく受検できるよう、結果データの閲覧権限は法令によって厳格なルールが定められています。
ストレスチェックに関わる担当者ごとの、ストレスチェック結果の閲覧範囲は下記のとおりです。
| 比較項目 | 実施者 | 実施事務従事者 | ストレスチェック担当者 | 人事部や管理者など人事権がある者 |
|---|---|---|---|---|
| 人事権の有無 | × | × | ⚪︎ (人事権があっても良い) | ⚪︎ |
| ストレスチェック個人結果の閲覧 | ⚪︎ (守秘義務あり) | ⚪︎ (守秘義務あり) | × (本人同意なしの場合) | × (本人同意なしの場合) |
| 集団分析結果の閲覧 | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ | ⚪︎ |
事業者が個人結果を入手したい場合は、本人の同意が必要です。ただし、個人が特定されない形の集団分析結果であれば、事業者が自由に確認し、職場環境の改善に活用できます。
ストレスチェックの実施者は、自社の状況を熟知している産業医に依頼することが最も望ましいとされていますが、企業の規模によっては産業医がいないケースもあります。自社の体制や規模に合わせて、最適な選任方法を検討しましょう。
最も理想的なのは、自社の産業医にストレスチェックの実施者も担ってもらうパターンです。日頃のサポートで職場を理解しているため、状況に応じた的確な環境改善提案やメンタルヘルス対策が期待できます。
ただし、通常の業務範囲を超えるため産業医が引き受けに抵抗を示すケースもあるため、交渉をスムーズに進める際は下記のポイントを明確に提示しましょう。
新たに産業医を探して実施者を依頼する方法もあります。選任を検討する際は、実施者としての対応が可能かどうかを必ず事前に確認しましょう。産業医の選任義務がない「従業員数50人未満の事業場」であれば、各都道府県の地域産業保健センターに相談し、実施者確保の支援を受けることも可能です。
実施者以外の実務運用を自社で行うか、外部に委託するかは別途検討する必要があります。
【関連記事】産業医は中小企業でも必要?いない場合に困るケースや相談先を解説!
社内での対応負担が大きい場合は、一連のストレスチェック業務を外部機関へ委託するのも一手です。調査票の作成から実施後の集団分析まで一括して任せられるサービスも多く、専門知識や豊富なデータに基づいた確実な運用が期待できます。
外部サービスのなかには、医師や保健師などが担う実施者の役割まで代行してくれるものもあります。産業医がいない場合や、運営の社内リソースが不足している場合には、負担の軽減につながる選択肢の一つとして有効です。
ただし、ストレスチェックの実施者は、日頃から職場の状況を熟知している自社の産業医に依頼することが最も望ましいとされています。まずは自社の体制や規模に合わせて、最適な選任方法を慎重に検討することが大切です。
▼外部サービスを選定する際の選び方は、こちらの記事で解説しています。
【関連記事】ストレスチェックの導入〜実施手順を流れで解説!費用や選び方のポイントは?
最後に、現場のよくある疑問について解説しますので、実務の参考にしてみてください。
A. 実施者が「医師」であれば可能です。
ストレスチェックの実施者は保健師や精神保健福祉士なども務められますが、その後の面接指導を行えるのは「医師のみ」と法律で定められています。
そのため、医師以外の有資格者が実施者を務めている場合は、面接指導を別途、産業医などの医師に依頼する必要があります。職場の産業医が実施者であれば、高ストレス者の選定から面接指導まで一貫して任せられるため、運用が非常にスムーズです。
A.産業医との契約形態によって異なりますが、一般的には「1人あたり500円前後の手数料」と「高ストレス者1人あたり約1万円の面談料」が目安です。
ストレスチェックで産業医が関わる業務に関連して発生する費用の目安は下記のとおりです。
※金額は医師会などの基準によって異なる
ただし、下記のような契約をしている場合は追加費用は発生しません。まずは自社の契約内容を確認しましょう。
【関連記事】【完全版】産業医にかかる費用まとめ|報酬相場や追加料金が発生しやすいポイントまで徹底解説
A. 複数名の実施者を配置することも可能です。
複数名で実施する場合は、責任者となる「代表実施者(実施代表者)」と、それ以外の「共同実施者」に分けて体制を整える必要があります。この方法は、「実務を外部機関に委託しつつ、自社の状況をよく知る産業医にもストレスチェックに関わってもらいたい」という場合などにまれに活用されます。
従業員のストレスチェック結果を取り扱うストレスチェック実施者や実施事務従事者は、選任の要件や情報の取り扱いに厳格なルールがあります。法令を遵守した確実な運用を行い、メンタルヘルス不調の未然防止や職場環境の改善につなげるためにも、各担当者の役割を正しく理解して、自社に合ったストレスチェック運用体制を整えましょう。
2028年4月からは従業員50人未満の事業場にもストレスチェックの実施が義務化される予定です。これまで対象外だった事業場も、今のうちから準備を進めておきましょう。
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